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(その後)
我がNo−168MCプリアンプ。
あれから殆ど変化はない。が、唯一イコライザーアンプ初段の定電流回路を2SK246BLの自己バイアス型に変更してある。
HZ6C2と2SC1400による定電流回路ではハムがどうにも消せなかったのだが、2SK246の自己バイアス型にしてみたところこれが許容範囲内(=ホワイトノイズ以下)に沈んだためである。
ということは、HZ6C2と2SC1400による定電流回路ではHZ6C2がハムの進入経路となった、ということだろうか。ハイゲインのMCプリの初段だからであろう。
が、K先生の新単行本登載の半導体プリアンプでは相変わらずHZ6C2と2SC1775Aによるこの型式の定電流回路が踏襲されている。
う〜ん。製作技術の差?(^^;
No−168のオリジナルにはない我が2段目トランジスタバージョンのCDラインアンプ。
この3月7日に発行された“音楽を愛する電子回路 オーディオDCアンプ製作のすべて 上巻”登載の“高出力MCプリアンプ”になにげに示されているK先生の余りに見事な巧みの技を目の当たりにし、結果、こうなったのである。
2段目にトランジスタを起用してCDラインアンプを作りたい、という場合は、“高出力MCプリアンプ”のフラットアンプ部をそっくりそのまま活用するのが最も妥当だ。
そのゲイン配分、定数設定等の各部の設定はK先生により何一つ変更出来ない完成度に高められていると思われるからである。
証左が下の表である。
これはPSpice(評価版)で各フラットアンプ回路をシミュレートし、各アンプにおける負荷1KΩ、21KΩ、51KΩ時のオープンゲインの差について、理論値との乖離を見たものである。
勿論、乖離は小さい方が理想に近い。終段に5極管特性の素子を起用した完全対称型アンプでは、この乖離が少ないほどに2段目差動アンプや終段の対称動作が理想的になされている、ということになるのである。
表の一番上が“高出力MCプリ”のフラットアンプ(カスコードなし)である。その下に、No−168のTR+FETのCDラインアンプ、2段目にTRを起用した改良前の我がNo−168TRCDラインアンプ、そして改良前の我がNo−128(?)MCプリのフラットアンプのカスコードなしとありの場合が載っているのだが、恐れ入ることには、“高出力MCプリ”のフラットアンプはカスコードがない状態でこれらアンプのカスコードありの場合より優れた結果なのである。
K先生のこの魔法と思えるほどの絶妙なセッティングには全く脱帽だ。
「一部だけ高性能にしてもしょうがなかろうにと・・・。詰めが甘い・・・」 と天の声。 はっ。m(__)m
機 種 電圧利得
(db)電圧利得差 理論値
との乖離電圧利得差 理論値
との乖離負荷1KΩ 負荷21KΩ 負荷51KΩ 21KΩ−1KΩ 51KΩ−1KΩ 理論値= 26.4 理論値= 34.2 高出力MC カスコードなし 37.2 61.1 66.0 23.9 -2.5 28.8 -5.4 カスコードあり 37.1 62.0 67.1 24.9 -1.5 30.0 -4.2 168FET FA カスコードなし 44.4 66.2 70.0 21.8 -4.6 25.6 -8.6 カスコードあり 44.9 68.2 72.5 23.3 -3.1 27.6 -6.6 168TR FA カスコードなし 51.7 72.6 75.7 20.9 -5.5 24.0 -10.2 カスコードあり 51.8 75.0 79.5 23.2 -3.2 27.7 -6.5 128(?) FA カスコードなし 46.2 67.0 69.8 20.8 -5.6 23.6 -10.6 カスコードあり 46.4 68.7 72.4 22.3 -4.1 26 -8.2 128(?)FA 改良後 カスコードなし 41.9 64.4 68.2 22.5 -3.9 26.3 -7.9 168TR FA 改良後 カスコードあり 41.4 65.8 70.9 24.2 -2.0 29.5 -4.7
結果、すでに我がNo−128(?)完全対称型プリアンプのフラットアンプについては、K先生の絶妙なセッティングの技を盗み改良を施した。
それにより、表の下から2番目にあるとおり、改良後はカスコードなしのままで、改良前の回路定数でカスコードありとした場合を上回る数値が得られるものになったのである。
音もあらゆる面で良くなった。のは、数値が理想に近くなるほどに動作の対称性も理想的になるのだから当然だろう。
そこでこの2段目にトランジスタを起用した我がNo−168TRバージョンCDラインアンプである。
これは最初2段目にはカスコードを付けないで作り、結果、オリジナルのFET+TRのラインアンプに比較して音的に優位性を感じることが出来ず、結局、2段目にカスコードを付けて作り直してようやくオリジナルCDラインアンプより良さげなものになった、という経緯は先に書いたとおりだ。
シミュレーション結果は案外その理由を端的に示しているのかもしれないのだが、残念ながらこの点ではこのカスコードを付けたTRバージョンCDラインアンプも、カスコードのない“高出力MCプリアンプ”のフラットアンプに未だ及ばない、ということが示されている。
ではどうするか。
実は2段目にカスコードを付加した今の回路構成のまま、定数だけを“高出力MCプリ”のものに入れ替えることを考えた。多分我がTRバージョンCDラインアンプの改良としては最も妥当なものだろう。上の表の“高出力MCプリ”のカスコードありの場合のシミュレーション結果はそれを予言している。
が、ない・・・ススムが(^^; 1.2KΩも560Ωももう切れちゃっているのである。
ニッコームでもまあ良いわけだが、他は折角ススムだしなぁ・・・、ということでまたしてもK先生の技のエッセンスを盗んで手持ちのススムで可能な回路定数による改良を施すことにしたのである。
結果が上の回路である。
その成果が表の一番下となっている。
これでようやくK先生のカスコードなしの“高出力MCプリ”を上回るものとなったのだ。
2段目にカスコードを付加した面目がようやく確保できたというものである。(^^)
さて、これで位相補正に問題はないだろうか?
そこで、例の如く負荷1KΩ、2KΩ、4KΩ、8KΩ、16KΩ、32KΩ、64KΩの場合のオープン電圧利得&位相特性のシミュレーション。
まずは従前の回路。
ちょっと、全体的にゲインが高すぎたのかもしれない。位相補正はまぁまぁだったようだ。
で、今回の改良後の回路。
またしてもまるでこの日の来ることを待っていたかのようにピッタリだ。(^^)
音は?
何を分かり切ったことを・・・。
圧倒的な充実感。豪快、緻密、端麗、優美、爽快、自然。名石2SA726Gなのだぞ。最高だ。(^^)
な〜んて(^^;
「名器は正しく使ってこそ名器たるべし・・・」 はっ。m(__)m
(2003年3月30日)
(その後の2)
2004年正月
そり遊びに夢中になり感覚をなくした足を炬燵でかゆいかゆいと掻きながら暖めた遠い記憶・・・
が、今年は雪がない。
冬だというのに雪ではなく雨が降ったりしている。
今年の正月は穏やかで暖かい。
ので、という訳でもないのだが、この正月休みにようやくNo−168の電源部を拵えた。
これまではNo−128用の電源を使い回していたのである。ようやくNo−168用に専用の電源を奮発したのだ。両者は基本的に同じものだから、要するに電源部の増設。
それが下。
左上が上から見た電源の全景。って、何も目新しいことはない。(^^;
トランスは真ん中上のテクニカルサンヨー「TK−P1」である。ちなみにその下にあるのがNo−128用電源の「TKP−1」。
同じものだが、自作派としては添付シールは下の回路配線図の書いてある方にして貰った方がありがたい。引き出し線はダイエー電線でその方向もK式どおりという嬉しいものなのだが、時にその引き出し線の色が変わったりするものだから上のシールでは色の組合せを自分でテスターで確認しなければならない。
整流用ダイオードは何故か手元にあった m(__)m A&R LabのB8A03。真空管ヒーター電源整流用途が基本的に想定されたもののようで逆耐圧は30Vと低いものだ。が、No−168用途にもマッチする。逆耐圧が低いものの方が順電圧も低いのか、これで整流すると整流後B電圧はCDラインアンプ1台に供給時で±28.5V程度になる。
フィルターコンデンサーはニッケミKMH10,000uF35V。MCプリで当初ハムが出たこともあってオリジナルの倍の容量にしてある。その後MCプリ初段の定電流回路をFETの自己バイアス型に変更してあるので、それならオリジナルどおりの4,700uFでも良いのかもしれないが試していないので不明。(^^;
No−128の電源を使い回していたことからNo−128の電源も同じになっている。
さて、電源ケースをオリジナルどおりのタカチOS49−20−33BXとする場合、側板へのKMHの取り付けには注意が必要。
まず寸法自体がぎりぎりなのだが、それもあって、K先生の新単行本上巻25ページの図25電源左サイドパネル取り付け寸法図をケース外側から見た図と解して、さらに取り付け穴をその図のように何気に開けてしまうと痛い目に遭う。
あの図はケミコン取り付け面から見た図なのである。あの図をケース外側から見た図と解してあのような角度で穴を開けてしまうと、まず側板の表裏を逆に取り付けなければならなくなる。何故ならケミコン取り付けバンドの締め付け用ネジがそうでなければ収まらないのだ。側板は表裏に大した差はないが、差が全くない訳ではないので気になる人はこれでガッカリすることになる。
次がそのバンドを側板に取り付けるための足があの図のような角度ではまた難儀を呼ぶ。多分ヤスリでその足を削る羽目に陥るだろう。ヤスリなんて持っていない人はやむを得ず穴の開け直しだろうか・・・。
そして何故現物を当てて事前に確認しなかったのだろう、と後悔するのだ。
って、それを今回実践してしまったのが実は・・・ > (^^;
それが写真左下の今回のNo−168用電源のケミコン取付の様子である。実は側板の表裏が逆になっており、バンド取り付け足をヤスリで削ってようやく取り付けてあるのである。
それに対して、写真下右側は事前にきちんと現物で確認して取り付け位置を決めたNo−128用電源のケミコン取付の姿だ。足の取り付け穴が中央にほぼ水平位置で開けられていることが分かるだろう。これだと何も難儀がない。
前回はきちんと事前に現物を当てて確認して難儀なく取り付けたにもかかわらず、今回はそれを忘れて安易に穴開けしたがために難儀してしまったのだった。
次回にまた忘れないようにここにメモしておこう。
教訓。現物確認、現物合わせ。
さて、上で改良したNo−168のオリジナルにはない我が2段目トランジスタバージョンのCDラインアンプである。
すでにまた多少の変更を行っている。実は上の改良後、やや問題を抱えていたのだ。
何か?と言うと、出力のオフセットとドリフトだ。
完全対称型になってからこのオフセットとドリフトには手こずらされている。>(^^;
真空管プリの方はAOCが導入されてこの問題は解決済みだ。し、半導体プリでは何ら対策を施さなくてもオフセットやドリフトは問題にならないレベルに収まる。と言うのが公式見解なのだ。が、私の場合製作スキルが不足しているためか、完全対称型プリでは簡単な筈のフラットアンプで大きなオフセットやドリフトの発生に難儀させられているのだ。下手>(^^;;
この我が2段目トランジスタバージョンのCDラインアンプも、改良後、ボリュームMAXの50kΩの位置では数百mVものオフセットやドリフトが発生するようになってしまったのである。
と、いうことがあって、幾つか小改良をして現在の回路はこうなったのだ。
先ず、初段の2SK30ATMGRから高性能デュアルFETのソリトロンFD1841への交換である。
オフセットやドリフトの原因は、初段FETのペア選定及び熱結合に問題があるからである。
ということであれば、高精度に選別されたマッチドペアをハイブリッドに熱結合してワンパッケージに収めた高性能デュアルFETを導入すれば解消できるだろうという訳である。そしてこれとK30の場合を比べてみれば自分のペア選定と熱結合スキルのレベルも明らかになるだろう(^^;。という思いも籠もっての思い切ったFD1841の導入なのだ。
問題はFD1841があるか、ということなのだが、いつものどらえもんのポケットをぐりぐりと探ったところ、おお!Idss=1.61mAと1.65mAのFD1841が出てきた。
初段の動作電流設定が1.36mAなのでもうちょっとIdssが大きいのが欲しいところだが、この際とても贅沢は言えないので早速移植オペを執刀した。
結果は確かに高性能デュアルFETの効果はあることが分かった。体感としてオフセットやドリフトが1/3ぐらいに減った。
が、残念ながら劇的とは言えない。逆に自分のペア選定及び熱結合のスキルにそんなに問題があった訳でもなさそうだとも思えるのだった。
こうしてみると、やはり初段のみの問題ではなさそうだ。となると終段で殆どのゲインを稼ぎDC安定度を得る上で重要な差動アンプにゲインをあまり与えない完全対称型プリフラットアンプはそもそもDC安定度を得るのが難しいのではないかなぁ・・・。と思えて来るのであった。特に2段目にTRを起用した場合、わざわざゲインを殺すために電流帰還用エミッタ抵抗の挿入が必要となって、これが2段目の折角の差動動作の効能を弱めてしまうし・・・。
で、次に初段定電流回路のエミッタ抵抗=電流値設定抵抗を2.2kΩから2.4kΩに増やした。のは、終段のアイドリング電流値を減らすため。
前の状態では終段プラス側C960には7.8mA、マイナス側C960には9mA程度のアイドリング電流が流れており、TRはかなり熱くなる。しかも上下で電流値が異なることから熱さも異なり、これがかなりドリフトの発生に影響しているように感じるのである。また、より本質的には、ここに使ったC960はいにしえの範疇のC960のようだから、そもそもの出力インピーダンスが低そうだし、それも考えるとアーリー効果特性からしても適正な範囲で可能な限り動作電流は小さくしておいた方が妥当のように思えるのである。
で、そのためには2段目差動アンプの共通エミッタ抵抗を増やして対処しても良い訳だが、ちょうどその辺の値のススムは切れているし、Idss=1.61mAと1.65mAのFD1841には初段の動作電流値も減らした方が気分が良い、ということもあってこうしたのである。
この結果、終段のアイドリング電流値はプラス側5.9mA、マイナス側7.1mAとなったのだが、結果は、これも予想通りオフセットとドリフトの抑圧に利き、体感的にはこれがさらに1/2程度になった。
大分実用的になってきた。
が、まだ満足できるレベルではなかった。
そして最後が「但聞ドライブ」(というらしい(^^;)の導入である。
上の回路図の出力からマイナス電源に繋がっている2SK30GRによる定電流回路がそれなのだが、かつてNifの「はんだごて」で但聞響さんが発表されたものだ。
完全対称型は、2段目右側の動作電流分終段上下のアイドリング電流に差が生じるのが必然なのだ。ちなみにこのTRCDラインアンプでは上で記載したとおり、終段上下のアイドリング電流に1.2mAの差があるが、それが即ち2段目差動アンプの右側の動作電流分の差なのである。このために終段の動作対称性等が僅かながら崩れると考えられるのである。パワーアンプのように終段のアイドリング電流が大きければそもそも問題にならないレベルだと思えるのだが、プリアンプではちょっと悩ましいところなのだ。
そこで、その2段目差動アンプの右側の動作電流を定電流回路で抜いてやることにより終段上下の動作点を揃えて動作対称性を高めようというのが「但聞ドライブ」の趣旨だ。
この程度は問題がない。と言われればそうだろうとも思えるのだが、No−168シミュレーションその2でやはり多少の影響があることと、その影響を廃し動作対称性を確保する上で「但聞ドライブ」には効果があることが明らかなので導入することにしたのだ。
また、これを取り付ければ終段TRのアイドリング電流は一致するから終段TRの発熱も上下で同じ状態になるのである。その結果出力のドリフトも減るだろう、というのも重要な思惑なのだ。
回路はFET1個と抵抗1個の簡単なものだから、上手く基盤上に追加できた。写真右上のFETがそれである。抵抗は基盤裏側に付いている。抵抗値は勿論2段目右側の電流値と一致するよう現物合わせで決定する。
結果。まずオフセットやドリフトだが、これもまた期待通り。大分減少してようやく実用範囲に収まるようになった。(^^)
勿論常時ボリュームMAX状態では我がゲイン40倍のパワーアンプのDC保護回路の許容値±15mVには収まらないが、通常聴取の音量位置を超えるボリュームセンター位置なら十分許容範囲に収まる。「但聞ドライブ」の導入によって終段のアンバランスが解消されたことだけでなく、導入前には終段のアンバランスを補正するために初段、2段目もアンバランスになっていたものが、その必要がなくなった結果初段、2段目についてもバランスが良くなったということもあるのではないだろうか。そんな感じがするオフセットとドリフトの減少具合だ。
さらに「但聞ドライブ」導入で音はどのように変わるのか?が興味深いところだろう。No−168シミュレーションその2で見られたとおり対称性は間違いなく良くなるのだ。
が、あれはオープンゲインでの状態であり40dBものNFBを掛けた後ではその違いの痕跡も現れないだろう。まして音の差などあるはずがない。というのも現実的で説得力のある意見だ。
やはりこの辺は耳の優れた人に判定を任せるのが妥当だろう。
という訳で、この点についてはM−NAOさんが例の「あれ?」で近々明らかにしてくれるであろう。 えっ、もうしてる?(謎)(^^;
と、「但聞ドライブ」の音的効果についてはM−NAOさんにお任せすることにして、新しい電源を繋いで我がTR式CDラインアンプで早速CDを聴いてみる。
FD1841まで導入してしまい、すっかりいにしえの名石だらけの豪勢なCDラインアンプになってしまったが・・・
こういうあからさまな音は好きである。良い。(^^)
半導体は超高分解能とK先生が新単行本に書かれているが、全くに明るく晴れ上がっていてくまなく見通せる音だ。
ソースが悪いととっても悪いがソースが良いと引き込まれるようにとっても良い。 ん、当たり前か(^^;
まっ、このCDラインアンプからこれ以上の音を出すには、ソースの音がもっと良くならないと駄目だな、こりゃ。
な〜んて。大言壮語は正月に免じてお許し願いたく(^^;
(2004年1月4日)
(その後の3)
たまたまMJのバックナンバーを見ていたのだが、そこでまたNo−114を読んでしまったのがまずかった。と言うか良かったと言うか・・・(^^;
「FET定電流はDCアンプが誕生した時から繰り返し実験し、実験のたびに敗北感を味わってきた。FET定電流は音がか細く、弱々しく伸びやアタックの足りないエネルギーに乏しい音なのだ。勿論FETによっても音が違う。色々交換してみても、Tr式定電流にかなうものは何一つ見つからない。最近急速にアンプが進化しているので、今度はどうかと思い挑戦してみたが、またしても駄目だった。gmが手頃な値で、電極間容量が比較的少ない2SK30では、音色が全体的に暗くなり、コントラストが弱く、詰まった音になり、音楽が圧縮されてしまう。抵抗やダイオードがなくなった効果は何ひとつ聴こえない。この音はモールド型FETの宿命ではないかと考え、古いメタルキャンFET2SK15を入れてみたが、がさがさの味気ない音になり、とても音楽用アンプには使えなかった。元のTr式定電流に戻してほっとして音楽を聴いたが、FETの音に改めて疑問を感じざるを得ない結果だった。FETはどうしてもTrでは代用できないアンプの初段に限って使うのが正しい使い方だろう。」
う〜ん、これはALL−FET登場前のGOA時代のもので、完全対称型の場合は当てはまらないことだろう・・・
とは思うのだが、MCプリのイコライザー初段の定電流をFET定電流にしたことについて、久しぶりにこれを読んではやはり心の動揺を隠せないのだった。(^^;
で、Tr式定電流に戻してハムが出ないような方法はないものか・・・
と考えて、またしてもドラえもんのポケットから探し当てたものが右である。
「銀帯」だ。
「銀帯」といっても最近の方は分からないだろうが、いにしえからのDCアンプファンの方々は良くご承知の、東芝のツェナーダイオード05Z6.2Yである。
新品だ。よくこんなものが残っていたものだ。カソードを示す帯の色が写真の如く銀色なので「銀帯」というのだが。東芝のこの外形の500mWのツェナーダイオードシリーズは年代順に「銀帯」から「黒帯」、「青帯」と帯の色が変わり、名称も「青帯」の頃は05AZとなっていた。今はその「青帯」すらディスコンなのだが、この中で一番古い「銀帯」は突出してノイズが少ないことで知られたものなのだ。
ハムとノイズは違う。と、まぁそれはそうなのだが、問題なのは今ひとつ。K先生の「最新オーディオDCアンプ」の資料編にあるとおり、05Z6.2の動作抵抗Rd(Iz=5mA)は5Ω(typ.)〜15Ω(max.)なのである。ちなみにHZ6C2はこれが40Ω(max.)だ。この動作抵抗の違いにちょっと期待してみようか。と考えたのである。
Tr型定電流でのハム混入のルートがイコライザー初段の定電流回路のTRのベースであるとするなら、ハム抑圧効果においてその電位を規定するツェナーダイオードの動作抵抗が低ければ低いほど良い筈だ。電源のフィルターコンデンサーの容量をオリジナルの倍の10,000uFとしてあるし、案外大丈夫なのではなかろうか・・・、という淡い期待を込めて・・・
早速また移植オペを執刀した。
結果、・・・うおぉ〜お! これまでの2SK246による定電流の場合と同様ハムが出ない。よ〜しぃゃ。\(^o^)/\(^o^)/
なんともありがたい結果であった。こいつは春から縁起が良〜い(^^)
というわけで、我がNo−168MCプリアンプの回路は下のとおり、ほぼオリジナルどおりのものに戻ったのである。
問題の音だが、・・・やはりC1400はオールマイティですよね。
ところでこちらには「但聞ドライブ」は導入しないのか?
基盤スペースが一杯で載せることはちと困難(^^;
(2004年1月10日)
(その後の4)
我がNo−168CDラインアンプ。
これもその後やや変更があって、現在下の回路図のようになっている。
今回もまた2段目カスコード化か「但聞ドライブ」がネタだろう・・・と思われたかもしれないのだが、実は我がNo−168CDラインアンプは現在もオリジナルどおりに2段目にはカスコードを入れておらず、「但聞ドライブ」も導入していない。
もともと所要の進が切れたこともあって、初段のドレイン負荷抵抗1.8kΩのところを2kΩで、ステップ位相補正の1.2kΩを1kΩで代用し、2SC1775Aに代えて2SC1400を起用しているなどの違いがあるのだが、その後の変更点は2段目共通ソース抵抗を4.3kΩと大きくし終段2SC960のアイドリング電流を少な目の5mA台に設定している点のみなのである。
動作対称性を理想的にするためには2段目差動アンプにはカスコードを入れるべきだとか、「但聞ドライブ」には効果があるとか、あれだけ言っておきながら何でこれには導入しないのだ!
と、我ながら思うのだが・・・(爆)
実は、これに関しては「それはやめておいたほうが良い。」とPSpice(評価版)シミュレーターが予言するもので・・・(^^;
早速我がFET版No−168CDラインアンプのモデルである。
2段目差動アンプの共通ソース抵抗が3kΩと実機に比してかなり低いが、これは素子のばらつきでPSpice(評価版)モデルの方はこれで終段2SC960のアイドリング電流が5mA程度になる。
オープンゲイン時の電圧利得・位相特性を観る。
負荷はパラメトリックに1kΩ、2kΩ、4kΩ、8kΩ、16kΩ、32kΩ、64kΩである。
動作点を確認しておく。
う〜ん。ぎりぎりだ。が、まぁまぁだ。(^^;
オープンゲインが0dBに沈む13MHz付近のポイントにおける位相回転は−135°程度になっている。
実機の方は全く安定に働いているから、現実はオープンゲインが0dBに沈む周波数がもう少し低いのかもしれないし、あるいはこれでも位相余裕的に発振まで至らないレベルなのかも知れない。が、−120°を超えているのだからやはりぎりぎりというべきだろう。が、それ以下の周波数帯域ではステップによる位相回転も含め−120°以内に収まっているし、まぁまぁだ。
問題は、2段目にカスコード回路を付加した場合の電圧利得・位相特性なのだが。
この場合の動作点。
よく見ると分かるのだが、5MHz付近まではカスコードの効果かやや電圧利得特性が伸びているのに、それ以上の周波数において利得の減衰カーブがきつくなっている。位相特性の方は何故か数百kHzでの位相回転が大きく、数MHzにおける回転戻りのピーク周波数も低く、かつ位相の再回転も速くなってしまっている。結果電圧利得が0dBに沈むポイントにおける位相回転は−180°に達してしまった。
これは、この回路ではNFBを掛けるとボリュームを絞りきった状態では(クローズドゲイン0dB=1倍、ボルテージフォロア状態時)発振することを予言するものである。
ふ〜む。カスコードアンプのために追加した素子が超高域(MHz領域)における時定数の増加をもたらすのだろうか。どうにも上手くない。
こうしてみるとカスコードも良いことばかりではない。ということになる。ものごとは得失が表裏一体だ。したがって何事も得失を見極める眼力が必要なわけで、K先生がプリアンプのフラットアンプでは2段目差動アンプにカスコードを付加されないのはこの辺にも理由があるのかも知れないなぁ。
ステップ位相補正の設定で何とかならないか努力してみる。
負荷を1kΩに固定して、先ずはステップ位相補正の抵抗R6の増減がどのような効果を生じるのかを観てみよう。C1は270pのまま、R6をパラメトリックに250Ω、500Ω、1kΩ、2kΩ、4kΩと変化させた場合である。
凡例左からR6=250Ω、500Ω、1kΩ、2kΩ、4kΩである。
@Rが小さいほどに高域での利得減衰が早い。
A位相回転もRが小さいほどに早まってしまう。
Bただし、Rが小さい方が位相回転の戻り効果も大きく5MHz超の帯域では利得減衰の早さの順番が逆転しRが大きい方が位相回転が速くなる。
ということが分かる。
これだと総合的にみてR6=250として、いち早く電圧ゲインを0dB以下に沈めるのが良さそうだ。といったところか。
次にR6を250Ωとして、今度はC1を75pF、150pF、300pF、600pF、1200pFと変化させてステップ位相補正のコンデンサーC1の増減がどのような効果を生じるのかを観てみる。
凡例左からC1=75pF、150pF、300pF、600pF、1200pFである。
@Cは大きいほどに利得減衰開始周波数が低くなる。が、減衰カーブはCが小さい方が急になる。
A位相回転はCが大きいほど低域側で始まるが、位相が戻り始める周波数も低く、高域での位相回転はCが大きいほど遅くなるという逆転現象が生じる。
この結果からすると、C1は600pFや1200pFが妥当だという結果になる。
以上の結果からR6=250Ω、C1=1200pFとしてやってみよう。
負荷は元に戻ってパラメトリックに1kΩ、2kΩ、4kΩ、8kΩ、16kΩ、32kΩ、64kΩである。
利得が0dBに沈むポイントが5MHz付近と下がって、そのポイントにおける位相回転も−125°程度に収まった。
が、ステップ位相補正による低域側の位相回転が大きくなり、特に負荷の大きい36kΩや64kΩ時は200kHz付近で位相回転が−150°に近づいてしまう。実機ではボリュームは最大50kΩであるからその際のクローズドゲインは51倍≒34dBとなるので、負荷32kΩと64kΩの場合の利得グラフと縦軸34dBの交点における位相回転をみると、ちょうどその−150°に近づく辺りである。
だからこの場合、今度はNFBを掛けるとボリュームを最大にした付近で発振するかもしれない。
まぁ、この程度なら案外発振には至らないのかもしれないのだが、ステップ位相補正に1200pFもの容量を用いるのもなんだなぁ、という感じであるし・・・。
と、この場合2段目差動アンプにカスコードを付加するとどうもよろしくないのである。
と、まぁこういうことがあって色々シミュレーションしてみたのだが、完全対称型プリのフラットアンプにおいては2段目差動アンプにカスコードを付加した場合、以上のような高域での位相回転の変化は普遍的なことのようなのである。
例えば、オリジナルのNo−168CDラインアンプ。我がNo−168MCプリアンプのフラットアンプはまさにこれなのだが・・・。
念のため各部の動作点を表示しておく。
この結果はすでにどこかで表示したと思うのだが、オープンゲインが0dBに沈むポイントでの位相回転は−130°弱で、そのポイント以下の周波数での位相回転はすべからく−120°以内と、さすがにK先生のセッティングは見事である。
ところがこれに2段目カスコードを付加してしまうと、
動作点はこうだが・・・、
結果はこのとおり。
オープンゲインが0dBに沈むのは同じく10MHz付近だが、そのポイントでの位相回転は−170°に達してしまう。これではNFBを掛けるとボリュームMinで発振は避けられない。
おいおい。それじゃ我がTR版CDラインアンプは2段目にカスコードを付加していて大丈夫なのか? となるわけだが・・・
動作点。
オープンゲインが0dBに沈むのは13〜14MHz付近でそのポイントにおける位相回転は−135°程度と、我がNo−168CDラインアンプと同程度のギリギリの範囲に収まっている。ステップによる300kHz付近の位相回転も−130°以内だ。
ギリギリだが我がTR版CDラインアンプはカスコード付きでも安定の範囲に収まっていたようだ。
あ〜よかった(^^;
が、この場合でも2段目カスコードを外してみると・・・
動作点
やはり高域での位相回転は緩やかになっている。オープンゲインが0dBに沈むポイントでの位相回転は−120°以内だしステップによる300kHzにおける位相回転も最大−120°だ。これは全く素晴らしい位相補正のセッティングだ、ということになる。
やはり、位相安定度確保の観点からすると2段目カスコードはない方がずっと楽なのである。
というわけで、我がNo−168CDラインアンプの2段目にカスコード回路を付加するのは止めたのである。
本当にシミュレーターが言うとおりなのかは実験してみないと分からないのだが、実験のために基盤を作り直すのも何だし、その結果予想通り発振したというのではやはり気が滅入ってしまう。だから、実験も保留だ。というわけである。
こうしてみると、No−128(?)で初めて完全対称型プリのフラットアンプを製作したときに随分発振に悩まされ、完全対称型とは随分と難しいと感じたのは、間違いではなかったのだ。それはもちろん完全対称型という回路型式によるものではない。ゲインコントロール方式で100%NFB=ボルテージフォロアをステップ位相補正で実現しようとするものだから難しいのだ。
ステップ位相補正の定数決定はカットアンドトライ、何も分からずカスコードを付けてみたりで、ある時はボリュームminで発振し、定数を変えボリュームmin.で発振しなくなったと思ったら今度はボリュームmax.で発振したりと、あのとき非常に難儀したのは当然だったのだ。あのときにこのPSpice(評価版)があればそんな難儀もせずにすんだのだろうが、まぁ、なかったのだからしょうがない。(^^;
2段目カスコード化はそういうことで中止したのだが、では「但聞ドライブ」だけでも導入しようではないか。幸い基盤にも載せるスペースがあるし、配線も上手く行きそうだからちょっとした改良作業で簡単に実装できそうだ。
と思ったのだが、またしてもシミュレーターが「それもやめておいた方がよい。」と言うのである。(^^;
なに〜? そんなはずはないだろう!
と思うのだが、まずはこれがNo−168CDラインアンプの2段目にカスコードを導入した回路。勿論「但聞ドライブ」で2段目右側の動作電流を抜いている。負荷はパラメトリックに1kΩ、2kΩ、4kΩ、8kΩ、16kΩ、32kΩ、64kΩとこれまでと同じである。
終段2SC959のエミッタ出力電流を電流マグニチュードプローブで測定することにより、オープンゲイン動作時の回路の動作対称性を検証しようというものだ。
入力は1Vacだから、その測定値は即ち2SC959出力までの回路gmを表す。
凡例左からそれぞれ上側と下側のC959エミッタ出力点の負荷1kΩ、2kΩ、4kΩ、8kΩ、16kΩ、32kΩ、64kΩの場合のgm値であるが、今回はそのgmの数値と言うより上側と下側のgmの一致度が問題なのだ。
負荷が小さい方がgmは大きいことが分かるが、問題の上下のgmの一致度はさすが「但聞ドライブ」の効果だ。どの負荷値でも上下が良く一致している。
この結果からこの回路の動作対称度は、周波数が高くなるほどに、そして負荷が大きいほどに破綻していくことが分かるが、「